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ブルースは生きていることの起伏から生まれるものだと思うんです。 Rie “Lee”Kanehiraインタビュー


オーセンティックなシカゴ・ブルース系のピアニストとして唯一無二の存在とも言えるRie “Lee”Kanehiraがセカンド・アルバム『Lee’s Boogie』を発表した。録音は前作同様、シカゴのJoyride Studioだが、今回はバンド・スタイルではなくほぼ彼女一人が弾き、そして歌う。活動を始めておよそ10年、のびのびした演奏に伸び盛りの今が見事に刻まれている。 ☆1月20日からソロ・ツアー決定! 日程はインタビューの最後をご覧ください。

ソロ・ライヴは、一人だけど3つのアンサンブルなんです。

――毎月、中野「Bright Brown」でソロ・ライヴを続けています。今回は、その積み重ねが反映されているのでしょうね。

Lee:毎月ソロ・ライヴをやるようになって3年ぐらいになります。最初は歌もおしゃべりも自分でやらなきゃいけないんだ!と緊張しましたが、最近は一人を楽しめるようになりました。一人だけど、左手は左手の人、右手は右手の人、歌は歌う人、これは3つのアンサンブルなんだと気づいてからです。自由に解放された気分になるんですよ。

――ああ、自由さは録音を聴いて最初に感じたことです。

Lee:そうですか?! 最初はもうメンフィス・スリムになりたい!ぐらいの気持ちで練習していたのですが(笑)、だんだん自分なりのスタイルが生まれてきた感じがあります。昔に録音された曲であっても、自分にとっては新しく感じられるんです。

――ジャケット・デザインも含めて、温もりの感じられる心地よいアルバムだと感じました。傍に置いておきたくなるような愛おしさがあるというか。

Lee:全体の色合いは、アルバート・アモンズとピート・ジョンスンのレコードをイメージしています。ジャケットの絵は、白川ラボさんに彫ってもらった「消しゴムはんこ」なんです。ハーモニカのKOTEZさんとライヴをやったこともある「おもて珈琲」での展示がご縁で、お願いしました。

――歌声もまろやかになりましたね。ヴォーカリストでモデルにしている人はいますか。

うーん、リロイ・カーかな。大らかな人が好きですね。私自身も歌い上げるタイプではないし、ピアノと歌が一体となる心地よさに惹かれます。

――今回もリロイ・カーの曲“Longing In My Sugar”を取り上げていますね。

Lee:ええ、他に“How About Me”もリロイ・カーで知った曲なんですよ。バレルハウス・チャックさんが亡くなる前にリリースしたアルバムで聴いて、いいなと思って。

◆ターニングポイント:大きな歴史の流れの中、連鎖の中に居ることを目の当たりにして鳥肌がたちっぱなしでした。

――ピアニスト、バレルハウス・チャックさんが亡くなられたことも、製作の大きなきっかけになったと聞きました。チャックさんはLeeちゃんにとって、どんなアーティストだったのでしょうか。

Lee:2008年からシカゴに行き始めて、あちこちのジャム・セッションにも参加するようになりました。それはそれで楽しかったんですが、いろいろ考えているとき、アリヨさん(有吉須美人:シカゴ在住のピアニスト)が勧めてくれたのがチャックさんでした。 早速CDを聴いてみたら、私がサニーランド・スリムやメンフィス・スリムのここが好き! と感じている部分がそっくりそのまま同じなんですよ! 私だったら次はこう弾くって思いながら聴いていると、本当にそのとおりになるんです。

それでライヴが観たい!と、ホームページから拙い英語でコンタクトをとったのが最初ですね。ハンバーガーランチに連れていってくれて、いろいろな話を聞かせてもらいました。

――チャックさんはシカゴで長く活動していたんですか。

Lee:二十歳ぐらいの時にシカゴでやる!と決めてフロリダから車でやってきたそうです。リトル・ブラザー・モンゴメリーやサニーランド・スリムにも可愛がってもらったんですよ。マディ・ウォーターズ・バンドの追っかけをしていた時は、あまり熱心なものだから、ウィリー・スミスさんたちが楽屋に入れてあげようかとなったこともそうです。私がシカゴに行った時には、そうしたレジェンドはもう誰もいなかったけれど、チャックさんを通じて受け取ったものは大きいと感じています。

――そのバレルハウス・チャックさんが2016年12月に58歳で亡くなられて・・・・・・。

Lee:ちょうど年末年始に夫婦でアメリカ旅行を計画していたので、お見舞いに行こうと思っていた矢先でした・・・・・・。

明けて1月9日にトリビュート・コンサートが開かれることを知ったのですが、帰国予定の2日後! でも「どうしても出演したい」と夫に頼み込み、一人で残りました。

ジョン・プライマーはじめ大勢のミュージシャンが出演し、それは素晴らしいコンサートでした。

私のアルバムにも参加しているピアニストのアーウィン・ヘルファーさんがオープニングを務めたんですが、「チャックさんの好きだった曲をやります」と前置きして<4’ Oclock Blues>を弾き始めたんですね。それを聴いた瞬間から、わあっとこみあげてくるものがあって。チャックさんは亡くなってしまったんだけど、こうしてみんなつながっているんだな。私はこの場所にいるということはかけがえのないことなんだなと。大きな歴史の流れの中、連鎖の中に居ることを目の当たりにして鳥肌がたちっぱなしでした。

――それは素晴らしい経験でしたね! 今回のアルバムにも<4 O’Clock Blues>は収められていますが、100年も前の名もないピアニストから、レジェンド達、そしてバレルハウス・チャックとバトンタッチされてきた歴史の上にLeeというピアニストも立っているとも言えますね。

Lee:そうなんです。この日がターニング・ポイントになる!と確信しました。ふり返れば2016年はチャックさんが亡くなり、義母が亡くなりと、かけがえのない人を失うことが続き、その中で製作されたアルバムでした。

――立ち止まって人生を考える年でもあったんですね。

Lee:ソロ録音は、おばあちゃんになった時に作れればいいかなぐらいに考えていましたから。でも、その時々に記録を残すことは大事だと考えるようになったのは大きいです。

Rie Lee Kanehira ©Grant Kessler

――アルバムの最後に収められた<Iza Mae>はチャックさんに捧げる曲ですね。Shoji Naitoさん(☆)と息の合った演奏で。(☆シカゴ在住のギタリスト/ハーモニカプレイヤー。1stにも参加)

Lee:初めて聴いたチャックさんのアルバムに入っていた曲でもあり、どうしてもやりたかったんです。もう一人、チャックさんゆかりの曲ということでは、アーウィン・ヘルファーさんをフィーチャーして<4 O’clock Blues>も収録しました。トリビュート・ライブでこの曲を弾いたアーウィンさんに参加していただきたいとの想いが徐々に高まったのは実は録音直前だったのですが、Shojiさんが「それは大事なことだから言わなくちゃ!」と背中を押してくれました。

――アーウィンさんと連弾の<Spaghetti>もゴキゲンなナンバーです。

Lee:もともとは全くのオマケだったのをエンジニアが録音していたんですね。「Spaghetti!」は、カメラを向けられた時のアーウィンさんの口癖で、そのときの表情がなんとも可愛いんですよ。

Rie Lee Kanehira ©Grant Kessler

――<Pumpkin>には、ニャー!というネコちゃんの鳴き声も入っていますよね。

Lee:えさをねだる朝一番を狙ってレコーダーで録音してもらいました。シャッフルの<Walkin’ With Murphy>は、うちのマーフィ(愛犬)がゆっくり散歩している様子に似ているなと思ってタイトルを付けました。

――そうしたアットホームな雰囲気も、このアルバムのリラックスしたムードに作用している気がします。ピアノの音色もとても艶やかです。

Lee:ファースト・アルバムで使ったのと同じ、100年以上経過したグランドピアノです。鍵盤と鍵盤の間にスキマが空いているような古いピアノですが、パイントップ・パーキンスも弾いたし、チャックさんが<IZA MAE>を弾いたのも同じピアノですが、同じ<IZA MAE>でもチャックさんと私では全然違います。ピアノって不思議な楽器ですよね。

ブルースとの出会い~こういう風に弾きたい!とすぐに思いました

――Leeちゃんのような歌うブルース・ピアニストは、日本はもちろんシカゴでも稀有だと思うのですが、音大でクラシック・ピアノを専攻していたそうですね。何かブルースに惹かれる下地があったのでしょうか。

Lee:小さい頃からピアノを弾くのは好きだったんですが、きちんと習い始めたのは小6の時で、とても遅いんですよ。だから「音大に行きたい」と相談したら、先生に「えっ、今から?!」と驚かれましたね。

大分にある音大に進んでからも、友だちよりテクニックがない上に、学校で一番厳しい先生に指導を受けていたので、しょっちゅう怒られていました。「そんなダイナミックのつけ方ありますか! 音が高くなった時にクレッシェンドして、低い時に小さくなるのはあたりまえでしょ!」「あなた、リズム感が全然ない!」「もう!鈍感すぎるのよ!」って(笑)。

そのうちに先生の言うとおりに弾くと単位がもらえるみたいなことが、だんだん面白くないなと感じ始めて、卒業したらもうピアノはいいかなと思っていたんです。

――その時に出会ったのがブルース?

Lee:大分のライブハウス「ねいろや」のマスターが、メンフィス・スリムとサニーランド・スリムのアルバム『1960 London Sessions』と『Midnight Jump!』を貸してくれたのですが、あ!こういうのが好き!ってすぐに思いました。気ままにアクセントを付けたりするのを聴き、ああ、こんな風に弾いていいんだと。私は昔からピアノは音が出たらいいかなと考える方だったんです。音大の先生には「アナタのそういうところが“がさつ”なのよ!」ってイヤな顔されてましたけど(笑)

――とっかかりはブルースでも、やがてニューオーリンズ・ピアノやブギウギに挑戦するピアニストが多いのですが、常にそこが原点なんですね。

Lee:そうですね、ピアノだけというより、シカゴ・ブルースのバンド・アンサンブルが好きなんです。もちろんビッグ・メイシオのようなピアニストも大好きなんですが、むしろギターとのコンビネーションの方がいいなと思いますね。

生きていることの起伏から生まれるのがブルースだと思うんです

――私は女性にはブルースはわからないと言われたこともあるのですが、ブルースのイメージにとらわれたことはないですか。

Lee:昔は言われましたよ。「オマエは不幸にならなきゃダメだ」とか「やっぱり男の音楽や」「結婚したらブルース終わるな」とか。でもいざシカゴに行ってみたら、皆、愛妻家だし、家族を大事にした上でブルースを深く理解して演奏している。生活の一部であって、何も特別なことじゃないんですよ。それをシカゴで教えてもらいましたね。リラックスしているから聴いていても疲れないし、心地よくなれるんです。

――ブルースは普段の生活にあるし、隣の家にもあるのかもしれない。想像力の問題でもあるかもしれません。

Lee:そうですね。奴隷として働いたことがなくても、普段の暮らしの中で、イヤなことや辛いことっていっぱいあるじゃないですか。だからブルースを演奏する時にも共感できるのであって、わざわざ不幸になりにいかなくてもいいんですよね。生きていることの起伏から生まれるのがブルースなんだから。

――生きていることの起伏。ああ、本当にそうですね。

Lee:私は女性の方から気に入ってもらえることが多いんですよ。もっと暗いオジサンの音楽かと思っていたら、心地よくて明日もがんばろう!という気持ちになれた、と言われるのがうれしいですね。そもそも演奏するということは、前向きな行動だと思うんです。だからポジティヴな部分を受け取ってもらうのが一番です。 現在は、ありがたいことに周囲の人にも恵まれ、自分のやりたいことができています。続けていくうちに生まれる新たな縁を大切にしながら、どんな形であれ、やり続けていけたらいいなと思っています。

Rie “Lee”Kanehira オフィシャルサイト

★『LEE’S BOOGIE』 リリースツアー ●2018年1月20日(土) 宇都宮 Beat Club Studio 028-908-5080

http://www.beatclub.jp/ ●2月10日(土) 静岡 BROWN SUGAR 090-3936-5636

http://b-sugar.net/ ●2月11日(日) 京都 スターダストクラブ 075-221-2505

https://stardustclub.jimdo.com/ ●2月12日(月祝) 豊中庄内 LOOSE 06-6331-3641

https://www.facebook.com/shonai.loose/ ●2月13日(火) 大阪南森町 シカゴロック 06-6356-0772

http://chicagorock.sakura.ne.jp/index.html ●2月14日(水) 名古屋 Slow Blues 052-704-5815

http://slowblues.com/ ●2月15日(木) 広島LIVE Cafe Jive 082-246-2949

http://livecafe-jive.com/ ●2月16日(金) 小倉 Rcafe 093-471-5995

http://rcafe.penne.jp/ ●2月17日(土) 田川 jamLife 0947-45-1302

http://jamlife.main.jp/web/ ●2月18日(日) 大分 ブルーベイブ 090-5939-8652(井関)

https://retty.me/area/PRE44/ARE138/SUB13801/100000067615/ ●2月21日(水) 福岡 B.B.Kenchan 092-741-0266

http://www.bb-kenchan.com/ ●2月22日(木) 井尻 居酒屋六つ角 092-582-4348

https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400202/40022488/ ●2月23日(金) 鹿児島 BLUES T-BONE 070-5499-9276

●2月24日(土) 熊本PIANO BARレッドロビン 096-356-2526

http://piano-bar-red-robin.crayonsite.net/ ●2月25日(日) [博多ブルースフェスティバル]  中洲Gate’s7 092-283-0577

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